グローリー・幸福(しあわせ)

【配信】【レーベル:SHIZEN】

 ■オカリナ奏者・宗次郎 デビュー・アルバム
  【2017 Remaster】1985年作品

○○○○○○○○イメージ
SHIZENレーベル第一弾
透んだ空気をわたってきた音色(ねいろ)が、あたなの心を放さない
宗次郎がその名を知られるようになるのはNHK「大黄河」の音楽を担当する2作目からですから、本作はまさに産声を聴くようなフレッシュなオカリナの響きを堪能する事が出来る貴重なアルバムです。

エレクトリック・サウンドを大胆に取り込む前のアコースティカルでリリカルな表現がなんとも瑞々しく、すがすがしい。

オカリナとストリングスの響き。
まさに至極のオカリナ・アコースティック・ヒーリング

曲目
 1.幸福の朝(2017 Remaster)
   CALM HAPPINESS
 2.春雲(2017 Remaster)
   SPRING CLOUDS
 3.故郷の小径(2017 Remaster)
   PATH OF THE COUNTRY
 4.小鳥の歌(2017 Remaster)
   BIRD'S SONGS
 5.いつくしみ(2017 Remaster)
   FRIENDS
 6.泉のほとりにて(2017 Remaster)
   SIDE OF A FOUNTAIN
 7.幼子たちへ(2017 Remaster)
   FOR A LITTLECHILDREN
 8.夕べの詩(2017 Remaster)
   POEM IN THE EVENING
レコーディング・クレジット
Produced by TAKA NANRI
Associate Producer: Moko Nonri
Engineered by Takehiko Kamada.
Assistont Engineer : Tatsuyo Nakamura.
Acoustic Piano Tuned by Koki Nakamura.
Recorded at Sound Design Studio (Tokyo)
Recorded with dbx PCM Processor.

All tunes ore arranged by SOJIRO and Masamichi Amano
Ocarina played by SOJIRO
Acoustic Piano played by Kei Shibata Kiminori Atsuta:
Acoustic Guitar ployed by Hiroki Miyano (courtesy of Nippon Phonogrom)
Acoustic Bass played by Hitoshi Tanabe.
Percussion played by Yashio Sudo-Ikuo Kondo.
Strings played by Echika Ogawa, Momi Koyama, Noo Kaneko, Susumu Miyake
Front Photo by Takeshi Kawamoto.
Back Cover Photo (OCARINAl by Nobuharu Kondo)
Art directed by Kiyohiko lto
Finish work by LEXAN WORKS

ライナー・ノーツ(オリジナル)
 カフェバーの片隅に置かれた鉢植えのグリーンに安らぎを覚えるよりも、路傍に生える草花に安らぎと生命の素晴らしさを感じることはないだろうか。サウンド・デザイン・レコードが、新たに発足させたレーベルで聞かせたいSHI-ZENの音楽の意図とはそんなところにあるように思う。

 たとえに挙げられたカフェ·バーの「鉢植え」こそいい迷惑だろうが、この手のもののうさん臭さは、一時期ブームのきざしを見せた"環境音楽"のそれと似ている気がする。うわすべりで内容に乏しくファッション性のみを追った実体の無さゆえに、環境音楽あるいはインテリア・ミュージックと呼ばれた音楽は、当初ターゲットにした"スノッブ達"にすら見放され、急速にその色を失っていった。

 そうしたコマーシャル主義的な流れとは別に、清冽な一筋の流れを思わせる音楽があった。ウインダムヒルと呼ばれる「人間と自然の調和」を謳った音楽群がそれである。ジョージ・ウィンストンやウィリアム・アッカーマンを提唱者とし、北カリフォルニアの清んだ空気と美しい自然などといったイメージを徹底して戦略的に売り込んだウインダム・ヒルは、この手の音楽にては画期的なくらいに知名度を上げセール的にも成功をとげている。

 SHI-ZENから発表される音楽は“人間と自然" を強く意識する点においては、ウインダム・ヒルのイメージとオーバーラップする部分がある。しかし後者がどこか種類の違う "寄せ集め"に綺麗なユニフォームを着せて売り出した観があるのに対し、SHI-ZENの音楽は初めから"素材"に洗練された味がある。時代性を考えた場合、先輩格のウィンダム·ヒルを大きく凌ぐ素地があるというわけだ。

 この「グローリー」で聴かれるオカリナの宗次郎はじめ彼をサポートするアーティスト達、そしてSHI-ZENレーベル第一弾としてこのアルバムと同時に発表されている"ライツ・アンド・シャドウズ」のピアニスト、柴田敬一にしても、少し耳を傾けただけで分かるのは、基本的な「うまさ」、「音楽性」の高さだ。自然らしさと素朴さはいかにも似たニュアンスを感じさせはするが、"素朴さ"と"へた"もしくは演奏テクニックのおそまつさとは、言うまでもなく全く別のものである. SHI-ZENからリリースされた作品でうれしいのは、この点に関しての懸念がなく、ミュージシャンとして一流の人達であることだ。少くともへたを素朴さで糊塗しようとする詭弁を弄していないのが快い。最近の音楽は"アイディアが先行している" と嘆いていた良識ある音楽ファンには、充分喜んでもらえるシリーズが誕生したとも言えるだろう。

 もうひとつ、このSHI-ZENレーベルについて大きな評価を下したいのは、なによりも「日本人の手になる、日本人の感性を活かした音楽を創り出そう」というポリシーを持っている点だ。音楽に関して言えば、これまで輸出が輸入を上回ったということは皆無であった。物流の世界とは180度違う次元の話である。音楽に限らず精神分野におけるものが、自動車や電化製品の競争力と比べ、いかにパワーの弱かったことか。SHI-ZENから生み出される音楽はそんな状況のもとで、実質的にやっと世界に胸を張って出て行ける、また事実進出していく可能性を感じさせている。その理由のひとつは、SHI-ZENの持つサウンドの特長そのものにある。日本人だけが持つ"間"に対する感覚、いわば独得のリズム感覚がこれまでにない、美しくしかも人に安らぎを与えるサウンドを生み出すという強烈な”サウンド・ポリシー" とそれを具体化する "サウンド·キャラクター" を持っていることである。

 もうひとつは、欧米、特にアメリカに存在する日本ブーム、日本に対する関心の高さとうまくマッチしそうな点だ。そして、このことに大きく関連するのだが、アメリカのワーナー系レコード会社の「ゲフイン」がこのレーベルに、これまでは考えられないくらいの関心を寄せ、実際にアメリカでリリースしようとしているなどの理由からである。日本のみならず、アジア各国やヨーロッパ、アメリカでベス・·セラーになった喜多郎にそのキザシはあったものの、やっと日本の音楽が世界に出ていく、という意義は大きく重い。

 この辺で、当アルバムについて述べていくことにしよう。まず、アーティストの宗次郎について彼はオカリナを吹くミュージシャンであり、オカリナを自ら製作するアーティストでもある。オカリナという楽器は、個々それぞれによって特有の音色と音程がある。オカリナの演奏を本当にものにするには、実際に自分で粘土をこね、窯で焼いてオカリナを作らねばならない。宗次郎は、まさにそのようにしてオカリナを焼き、文字通り、自外だけの響き"を創り出しているアーティストなのだ。2カ月を要し粘土で形を作り、焼き上げた100個のオカリナのうち、彼の意に沿うものは、たかだか3~4個だという。ミュージシャンというよりは、陶芸家の趣きすらある彼の暮しぶりだ。

 暮しぶりといえば、彼は栃木県の茂木町河又という土地で生活している。廃校になった校舎を借り、オカリナ作りを主な生業としている。家には彼の妻のほか犬が四匹、猫が一匹。朝に夕べに山に向かって自作のオカリナに魂をそそぐべく吹いている。そうした中から生まれたのが「夕べの詩」であり「小鳥の歌」だという。オカリナといえば、小学生のオモチャ、程度の認識しか持たぬ人が多いが、このアルバムで聴かれるオカリナの音色を耳にしたなら、必ずやその音色、音域、そしてそれらがもたらす表現力の豊かさに驚き、楽器としての可能性と素晴らしさを改めて認識するはずだ。そのさわやかさは、目を閉じ音色に耳を傾けるだけで、青葉が繁る山のふところへ我々を誘ってくれるようだ。都会の喧噪も涼風でどこかに追いやってくれるような気がする。この上なく素朴なオカリナとピアノ、生ギター、生ベースなどアコースティックな楽器とのアンサンブルが、この上なく心地良い。「幸福の朝」、「春雲」などで聴けるストリングスとの絶妙なアンサンブルはこのアルバム中でも圧巻の部分だ。「泉のほとりにて」のメロディの温かさも特筆されるべきだろう。

 レコーディング中、宗次郎にとっての唯一の心配の種は、家に残して来た動物たちのことだという。素朴さや人間性そのものが音楽を創るわけではないがSHI-ZENはそのポリシーからも、まずはかけがえもないアーティストを得て我々に語りかけてきたように思う。 (1985年7月25日)

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